確かな知識と柔軟な発想で、サンプル染色に特化 浦上染料店
確かな知識と柔軟な発想で、サンプル染色に特化 浦上染料店

確かな知識と柔軟な発想で、サンプル染色に特化 浦上染料店

2017/12/20

Text:近藤弘一 Photo:近藤弘一、仲澤亜希、muk

1929年に創業した浦上染料店。先代が染料の販売を始め、今は2代目の浦上さんがその知識と経験を活かし、「“色”(カラー)をつくる!」をコンセプトにサンプル染色に特化しています。

データを学習するコンピューターによる色出しなど合理化も進めながら、ローテクもハイテクという言葉が印象的な色の微調整では豊富な知識と経験、感性が活きています。

染料の販売から、サンプル染色へ

染色は何年やられてるんですか?
もう40何年。僕が2代目で息子が3代目。僕は工業高校で、染めの専門の学校へ行ったから、中学出てからかな、染色を始めたのは。だから一生染め物やってるようなもんやな。

中学の時にはもう染の道に入るって決めてたんですか?
いや、僕じゃなくて親が決めた(笑) 。でも今はその時の友達やいろんな人との繋がりがあって商売になっているなぁという気がするし、大事だなと思うわ。

浦上染料店という会社名ですが、今はサンプルの染色がメインですか?
本業は染料屋だったけど、食っていけなくなってな。これじゃいかんからってスキマ産業でサンプルに特化せえって始めたのが、なんとか10人くらいの人数でできる商売になった。ただ、うちはあくまでアパレルじゃなくて、生地屋さんがメインで、アパレルに提案用に持っていくためのサンプルを作っとる。

先代が染料屋さんだったんですか?
うん、僕もそれをやったよ。けど染工場が辞めたんよ。近所に大手が2 社あって、ここを抑えとけば死ぬまで食っていけると思ってたとこが。結局そこも後継者の問題で、辞めてしまって取引先が無くなって。まぁ、そういう厳しい時代に変わっていきよったな。うちは後継者ができたことと、サンプルの事業が軌道に乗れたことがありがたいわな。

常識にとらわれず、人の逆をいく

サンプルを始めたのはいつですか?
本当に最近で4、5年前から。今は口コミで広まって。サンプルはデータを隠さずオープンにして、 人とは逆をいっとんよ。普通はデータを教えて言うたら、仕事取られたらいかんと思って隠すか、値段を高くして売ろうと発想するから、そうじゃないんだと。それをみんなオープンにしてあげて、買うのもうちの染料を買わなくてもええと。
染め工場と染料屋との繋がりは全国色々あるんじゃ。そこを紹介してあげるからうちから買わんでもええよ、あくまでサンプルでええんじゃと。そんなんでよく食っていけるなと言われるけど、そこがスキマだったんじゃな。

データを公表すると別のところにお願いされちゃいますよね?
僕らはそれでええんじゃ。それで最初にやったのが海外事業部だな。国内で量産しないで、データは海外に持っていくけど良いの?って聞くから、「良いよ」って。
サンプルなんか海外でデータを作って日本に持ってきてたら、飛行機代もかなり損やし、サンプル作るくらいなら量産してくれっていうわな。 そこにニーズがあったんだわ。これも運かなと思うけど、時代は変わるからな。これからどうなるかわからんけど。

サンプルだといつも違う要望が来ると思いますが、全て答えられるんですか?
それは技術の問題だな。もちろん全部が自分だけでできるわけじゃない。全国的に染料・薬品メーカーがおって、薬品を売っていた繋がりもあるから。ちょっと問題があればそういう人たちに相談すれば、バーっと広がって情報が返ってくる。結局人に助けられるということもあるわなぁ。

情報交換できるネットワークがあるのは安心ですね。
ただ、時代を読まないといかんわな。どのように変わるかと。日本のメーカーでも中国へ沢山行ってるけど、 染色で成功したとこはないわ。大きい会社なら今度はジプシーでベトナムに行こうかとかできるけど、小さいところはそこまでできない。そういう厳しい時代の流れもあるし、産地は苦戦しとるんよ本当を言ったら。

だから逆に坂本竜馬じゃないけど、点と点を結ぶ、奥田さんとのこういうコラボをしたりとかで、また新しい発想がでてくる。僕はむしろそういうものに期待してる。

それに技術はまだ各産地で残っているから、それを大事にしなきゃいけないわな。我々の技術というのは、1 年や 2 年でできるもんじゃないんじゃ。 失敗して色々考えて、解決する、それが技術になっていく。成功は本を読んでできるものじゃない、失敗の重ねだわな。それを多くしている人ほど技術がすごいよ。

糸、染、織がわかって、基本的なモノ作りを勉強する人がいなくなっとるからな。それを知ろうとせんと、アートやファッションというのもわかるんだけど、ものづくりを知ってやらないとダメだと僕は思うんじゃ。

ローテクもハイテク。一番になれば絶対残る

設備はとてもシンプルですね?
あんなもので染めれるんかいと言われるけど、若い者は体を使わんのや、えらいとか暑いとか言って。逆にそっちの仕事をすればローテクもハイテクじゃ言うて、それをやったら絶対残れるよ。やっぱり一番じゃないと。2番、3番になったら値段で競争になるからジリ貧で一緒じゃ。

染工場だと僕らの年齢くらいが頑張っていろいろ経験してきてる。今の若い者に言っても、こんな長靴履いて汚いことできるかって言われるけど、30、40 代はおらんのよ。学校は人を集めないといけないから、専門がなくなって、ものつくる言うても教わる場所がない。だからそういうおじさんたちに聞くしかないし、息子たちには今のうちにちゃんと勉強しとけよって言うんじゃ。

染めだけでなく、ものづくりに関わる人は年代が空いてますよね。
この前、小学校の仲間と同窓会をしたんだけど、ハゲとったり白髪だったり、話をしても電信柱が 2 本見えるとか、ろくな話はない。もう終わりじゃな(笑)。昔は自分の後姿を見ろって、いちいち丁寧に教えなかった。今は偉そうにしてたら、そんなの聞かん言うて嫌われるわ。そういう時代もあるしな。だけどこの業界にいたらトップになれるでといつも言うんだけどね。

仕事は楽しいですか?
嫌いだったらせんわな。アホみたいな染めたりして、ようやるわ。 好きだからやってるし、人がしないことをするのが良いのかもしれん。

お客さんから受けたオーダーは、まずは研究所のような会社へ届きます。ここで使用する染料や割合のデータに落とし込まれます。

データの作成は染料の調合と連動したパソコンで行われ、過去のデータを学習し、情報を蓄積するほど精度が増していきます。
工場と環境の近い設備で染め、データが揃ったところで工場へ。

届いたデータを元に染色をします。布の量の違いや水量、機械の大きさも異なるため、そのままのデータでぴったりとはならないものの、正解に辿り着きやすいとのこと。
当然、素材によって、また綿であれば原産地ごとの油分の量、季節による温度・湿度の変化もあるため、色の微調整は経験、感性が活きています。

染めをより多くの人に知って欲しいと始めた「どんぐり工房」では、一般の方へ向けた染め体験も。
遊びでやってるというものの十分な設備が揃い、正解のない染めへの探究心が垣間見れます。常に要望が変わるサンプル染色に対応する柔軟な発想と幅広い知識はここからも生まれています。

株式会社 浦上染料店
住所:〒711-0906 岡山県倉敷市児島下の町1丁目11-14
TEL:086-473-0436
URL:http://www.urakami-senryo.com/