伝統と新しい技術が共存している福井の繊維産業。その多様性のヒミツとは?・後編 (ウエマツ 丸仁 ラコーム 松川レピヤン)

伝統と新しい技術が共存している福井の繊維産業。その多様性のヒミツとは?・後編 (ウエマツ 丸仁 ラコーム 松川レピヤン)

2023/07/11

福井の繊維探訪、後編です。織ったり編んだりした生地を加工するプロたちの元へやってきました。

株式会社ウエマツ 工場に行き届いた小ロット・短納期の仕組み

織工場や編み工場で製造された布は、生地を洗ったり幅を整えるために整理加工工場という場所に行くことがほとんどです。そんな生地の仕上げを担当する整理加工工場の一つ、株式会社ウエマツさんにやってきました。

ウエマツさんの特徴は、大きなロットを生産する北陸地域の中で、小ロット・短納期で加工を仕上げる珍しい工場であること。

さらにウエマツさんの面白さは、創業から小ロット・短納期の工場として始めており、そのための徹底された設備導線にあります。

❶工場に生地を置く場所を極力作らない

入・出荷する生地の置き場を最小限に抑え、工場に生地の在庫が溜まってしまうこと防ぐことで、短納期で納める意識を場づくりから行っていることに驚きました。

❷生地の洗いから脱水までの導線を最小限に抑える

写真では見せることはできませんが、届いた生地を洗う・染める・乾燥させる機械は全て小ロット対応のものを使用しています。そして、全行程をスムーズにできるように機械の導線を工夫しています。

北陸産地で小ロット・短納期を売りにしている加工工場が無かった時代に、隙間の需要に応えるために工場を始めたそうです。

こうした設備や導線への工夫と、特殊な加工に短納期で応えていく徹底した姿勢により、生地を少量から受注するメーカーからの依頼が多く、注文が年々増えているといいます。

株式会社丸仁 オーロラに光る反射材?!

暗い場所で、光があたると自分の存在を見た人に知らせてくれる反射材という特殊なシート。日本反射材普及協会という一般社団法人も存在するほど、私たちの安全にとても重要な素材なのです。

そんな反射材を熱転写の技術を使い、生地や衣服にプリントする株式会社丸仁さんにお邪魔しました。今回伺ったのは、丸仁さんの新しい工場兼ショップ。

独自開発のオーロラに光る特殊反射材「LIGHT FORCE」を用いた製品を購入することもできます。

丸仁さんは、反射材の反射タイプや接着糊のバリエーションなどが豊富で、素材により糊などを使い分けていることが強み。もちろん独自で開発した接着剤などもあり、そうした選択肢の多さやクオリティが支持されている理由なのだと思います。

LIGHT FORCEも、そんな反射材プリントの尽きない追求心から生まれたもの。これまでの反射材と異なり、暗い場所で光があたると七色に光ります。

光ることの機能を超えた、特別で未来的な装飾を、生地やあらゆるアイテムにもたらしています。

詳しくは、LIGHT FORCEのWEBサイトをご覧ください
https://light-force.jp/

オンラインショップの「LIGHT FORCE STORE」はこちら
https://lightforce.stores.jp/

株式会社ラコーム ブランドな縫製工場を目指して

福井市内から車で30分ほど、もともと絹織物が盛んだった福井県勝山地区にやって来ました。

現在は恐竜化石の一大産地として盛り上がっている歴史深いこの街に、縫製工場の株式会社ラコームはあります。ここではボトムスを中心とした衣服の縫製を行い、その丁寧さからハイブランドからの依頼が絶ちません。

ラコームさんは縫製の技術力もさることながら、社内での取り組みや経営の方針がとても面白いのです。

❶効率と丁寧を融合した工程のライン

ラコームさんはほぼ立ちミシンで作業しているそう。一列のラインで作業を進め、次の工程への指示書をカーテンレールで流しているような工夫も、とても面白い!

そして、一人一台アイロンを携えていることも肝。工程ごとにプレスすることで、仕上がりのクオリティが各段に上がるのだとか。これが製品の付加価値にもなっているのです。

❷縫製の技術育成やモチベーションアップへの取り組み

●スキルアップのための時間

1日の業務が終わったら、残った時間を縫製などのスキルアップのための時間に使えるそうです。楽しみながら技術力を磨くことを意識しているといいます。

●みんなで会社の未来を考える会議がある

社内では、社員が主体となるミーティングも積極的に取り入れているそう。

応接室のボードには、今後縫製への需要がどうなっていくのか、需要が変化した場合会社はどんな方向に行く可能性があるか、みんなで意見や言葉を出し合っている様子を見ることができました。

目の前の作業に向きがちな毎日の業務の中で、自分が働く場所の未来をざっくばらんに考える時間があることは、日々の刺激にもなるのではないでしょうか。

❸端材・生地の活用へ、もっと街に開く工場に?!

縫製のために仕入れた生地の残反は、気づいたら工場に残っているもの。これらを眠らせておくのではなく、生地を使ってものづくりができるワークショップスペースを新たに設備する構想があるそうです。

縫製工場は自分が住んでる街にも意外とあるのですが、ミシンの音が外から聞こえてくることはあまりない気がしています。

縫うことと人々の生活があまり近くないこのご時世に、街に開かれた縫製工場があったらなんて素敵だろう、なんて思ったのでした。

目指すのは「ブランドなファクトリー」

これらの取り組みは、2017年からラコームの代表を務めている織田研吾さんが主導となって、時には中心となり、時には社員の皆さんを見守りながら行っています。

様々なお話の中でも織田さんの言葉で印象的だったのが、「ブランドなファクトリーを目指す」というもの。

「私たちの縫製代は消して安くないんです。だからこそ、頼みたいと思ってもらう付加価値を常に提示し続けることが大事だと思っています」

ブランドがストーリーや付加価値を購入者に提示するように、BtoBの世界でもメーカーが自分たちの価値観やビジョンを提示していくことが、これから益々必要になってくる時代。織田さんのお話は、ものづくりに携わる方に刺さる言葉ばかりでした。

株式会社松川レピヤン 細くて可愛い織りの世界・未来への大きなビジョン

今回私たちが滞在していた福井県坂井市丸岡町は、商品の織ネーム(タグ・ワッペン)や、織テープ、リボンなどを生産している地域で、この地域の織物を越前織と呼ぶそう。そんな越前織最大級の工場が、株式会社松川レピヤンです。

今回産地を案内してくださった、松川レピヤンの松川享正さん

本社と、織ネームやお守り袋を織る第一、第二、第三工場、そしてチロリアンリボンの生産を担う拠点・エイトリボン。5つもの場所がある松川レピヤンに全てお邪魔してきました。

洋服の背中についているブランドやアパレルのロゴが入ったタグ。ここでは、一度はどこかで見たことがあるブランドのタグが多く織られています。ネームが刺繍だと思っていた自分にとって、織物で作られていることは衝撃的。数センチの世界で文字が織られていく様は、今まで会ってきた織物の機械と特異で、全く新しいものづくりの現場に来たように感じます。

リボン生産に出会えるファクトリー&ショップ

2年前にリニューアルされた工場、エイトリボン。もともと8つの工場が集まった「丸岡エイトリボン協業組合」でした。1961年ごろは国内最大のジャガードリボン工場でしたが、2015年に閉鎖。松川レピヤンが7年前に工場を受け継ぎ、現在はレピヤンリボンのアイコン商品であるチロリアンリボンの生産を行っています。

ここではリボンの生産工程を見学できたり、敷地内にあるリボンズカフェではリボンの購入やワークショップ、縫製ができます。エスニックやフォークロアな要素がギュッと詰め込まれているチロリアンリボンを探すのは、宝探しみたいでとても楽しい。

未来の会社の在り方を示す新本社と食堂

そして個人的にインパクトが強かったのが、松川レピヤンの新本社です。写真は、社員食堂とコミュニティスペースなのですが、これだけで「ここで働きたい!」なんて単純に思ってしまうのです。

松川レピヤンの新本社の食堂とコミュニティスペース

今私が働きたいと思った、この「働きたい!」という気持ち。これが地域で働くときの、とても大事なモチベーションだといいます。

働く場所の環境作りをしたことで、社員がこの会社で働いていることを自慢に思ってくれたり快適に感じてくれるという良い効果もある、と松川さん。

同じ投資でも、製造に直接かかわるものとは少し異なります。働く人の幸福度や将来働きたいと思ってもらえる会社を目指す、ちょっと先の未来や人の気持ちに向いた、ソフト面への投資。

ローカルに根付く企業だからこそ、こうした会社の投資は地域への投資にもなっていくのだと思います。

他の産地を見学すると日々糸に向き合う作り手の方からお話を聞くことが多いですが、今回は経営をしている方のお話を主軸に聞いていました。その工場や会社を、もっと大きく言うと産地や地域を、どう未来に繋げていくのかという経営やビジネスの視点。繊維という業種を超え、こうした会社ごとの取り組みも、引き続き取材していきたい!と思った福井の旅でした。