テキスタイル産地ネットワーク八王子【本編①】

テキスタイル産地ネットワーク八王子【本編①】

2022/12/03

さて、満を持して迎えた11月26日・27日。

1日目は、繊維産地としての八王子を歴史から紐解くお話をお聞きし、その後に実際に街を歩いて、街とものづくりの関係性を探りました。

まず、会場となったのはちょうどオープンしたばかりの「東京たま未来メッセ」。駅前の一等地であるここには、かつて繊維試験所(産業技術研究所)がありました。
きっと市内外の多くの繊維企業の方々が通ったであろうこの場所で、今日、テキスタイル産地ネットワークを開催できることに胸がいっぱいになりました。

1日目の参加者は約30名。
班に分かれてまずは簡単な自己紹介から。
初めましての方も、お久しぶりの方もいて、話が盛り上がります。

そして始まった八王子産地の歴史のお話。
『交易から栄えた織物のまち八王子の変遷』と題し、八王子郷土資料館の学芸員の美甘由紀子さんにお話しいただきました。

八王子織物の歴史に精通している美甘さん。”はちはく”(桑都日本遺産センター 八王子博物館)前にて。
八王子で多く生産された “紋ウール”(ジャカードの毛織物)の解説をする様子

そこで知ったのは、八王子はもともと「生産の場」ではなく「交易の場」として発展した経緯があるということ。

江戸時代、甲州街道沿いに栄えた市場が評判を呼び、関東近県の上等な反物が集まるようになりました。そして次第に八王子でも機織りを専業とする者が現れ、各地の織物にアレンジを加えるなどして市場で売れるものを開発していきます。

「八王子織物」は八王子で生産された織物の総称であり、生地そのものの特徴で特定されるものではありません。あるときは縞模様の織物、ある時はジャカードの毛織物を織っていたりしたので、素材や工程・技術を見て「これが八王子織物だ!!」と言い切ること、その代表になるような反物があるわけではないのです。(なので八王子織物は伝統工芸品である「多摩織」と同義に捉えられがちですが、異なります。)

美甘さんから、江戸~昭和初期のお話をお聞きした後、奥田染工場の奥田から近年の八王子繊維企業の歩みについて軽く補足をさせていただきました。

いよいよ、午後からは街歩きです。この日のために、運営で力を合わせて地図をつくりました。予行演習では10km以上を一日かけて歩き、イラストはイベントの前日まで加筆修正を繰り返した努力の賜物です。

まだまだ、今後バージョンアップしたいと思っています

 

…そして一行は街へ。
八王子の駅前建てられた「織物タワー」があった場所からスタートです。

「織物の街八王子」( 昭和58 年頃) 昭和35 年建設 平成11 年まで 引用:平成12 年(2000)「織物の街に生きる」(八王子市郷土資料館) 表紙写真
現在、織物タワーの跡地には八の字を模した七色に光る織物を表すオブジェがある

ぞろぞろと、(良い意味で)取り留めのない集団が引率されて駅前を歩く様子は、とても不思議な光景でした。

エスカレーターの向こうまで続く行列を引き連れて歩く様子。周りの方は不思議な集団と感じた事でしょう

八王子住民にとっておなじみの放射線通りから黒塀通りを抜けて仲町へ向かい、この日オープンを迎えた「桑都テラス」へ。織物のまちとして繁栄した八王子には、花街で全国から訪れる商人をもてなす文化がありました。芸妓と織物文化には深いつながりがあるのです。

この日オープンを迎えた桑都テラスでは八王子芸妓の方々のパフォーマンスも行われていました

それから裏道を通って坂本呉服店さんを経由しながらようやく甲州街道へ。
通常ならば駅から歩いて10分ほどですが、この時点でスタートしてから1時間が経とうとしていました。はい、じっくり、案内する予定ですので、想定内です。

坂本呉服店さんは、着物以外にも女性の心をくすぐるアクセサリーや小物類を沢山取り扱っています。ちょっと通るつもりが、ついつい居心地のいい店内に吸い寄せられてしまいます。


このまま甲州街道沿いを歩くのかと思いきや、途中で曲がります。
そして向かった先は「中山メリヤス」さんです。編み生地の中でも珍しい「たて編み」を以前生産していて、現在そのデッドストックなどを使用した製品を作っています。

ここは、繁華街から遠くない場所ですが、今も続く繊維企業さんが3件並んでいます。中山メリヤスさん(ニット製造)、八木染色さん(糸染め)、森田商店さん(撚糸)です。(市内の繊維企業さんについて詳しくは https://soto.1920041.com/category/walk/)

温かな素材の商品が並び、夕暮れにかけて冷えてきていたのでちょうどよく、選ぶのが楽しくなります。中山さんは、この日のためにセールを開催してくださいました。

今度は再び甲州街道に戻りながら2つのスポットに立ち寄りました。
1か所目は「小堀栄養納豆店」さんです。都内で唯一の地釜づくりの納豆をいただくことが出来ます。ある人はお土産に、またある人は夜の懇親会で食べる為に購入していきました。

2か所目は「ちとせや」さん。こちらは”まちの駅”と称し、生鮮食品の他、八王子の特産品や市内のちょっといいものが集まるお店です。先ほど立ち寄った中山メリヤスさんや、この後に伺う予定の佐藤ニットさんの商品なんかも揃っています。

まちの駅CHITOSEYA店内の様子

そろそろ歩き始めて3時間が過ぎ、全力で楽しみながらも足どりに疲れがにじんできた頃。一旦コーヒーブレイクを挟みましょう。
立ち寄らせていただいたのは「ギャラリー&ガーデンカフェ ヤスタケ」さん。その名の通り、1階がカフェ、2階はギャラリーとなっていて、中庭には四季折々の草花をのぞむことのできる、美しくそれでいてホッとする空間が広がるお店です。

店内を優しく照らすのはアンティークグラスでできた灯です。随所に品の良いお洒落さが感じられ落ち着く空気感が漂います。


一休みして回復したら、八王子を代表する川「浅川(あさかわ)」の方角へ、北に向かいます。今度もまっすぐには進まず、「佐藤ニット」さんへお邪魔しました。
ひと口にニットと言っても、佐藤ニットさんは「ホールガーメント」という特殊な機械で製品を編み立てる技術をお持ちの会社さんです。

ホールガーメントは、無縫製ニットとも呼ばれ、編み目で立体を形作る縫い目のないニット製品です。縫い代のごろつきが無く、ニット特有の伸縮性により体にピッタリとフィットします。

立体を表現する編地はとても複雑な構造をしていて、設計には知識と経験が必要です。

そうこうしているうちに、外は夕暮れ時になりました。
浅川橋を渡れば、ゴールの中野上町はもうすぐそこ。
懇親会の前に折角なので、奥田染工場もご案内しました。

浅川橋から望む浅川の夕焼け。

皆さんに奥田染工場をご案内する様子

そして迎えた懇親会。
会場にお借りしたのは、「空間堂」さんといって、とてもかっこいい木工の職人さんのアトリエです。ここは、繊維関連工場の多かった中野上町で、八王子の中でもいちにを争う大きな織物工場だった「大竹絹織」さんの元工場の建物です。

ここ数年、こうした機会がすっかり減っていましたが、誰かと仲良くなるには余白の時間も必要だなと改めて感じる今日この頃です。

それにしても、沢山歩いたあとの一杯は美味しいですね!
明日に続きます。