伝統と新しい技術が共存している福井の繊維産業。その多様性のヒミツとは?・前編 (荒井株式会社 明林繊維 アサヒマカム)

伝統と新しい技術が共存している福井の繊維産業。その多様性のヒミツとは?・前編 (荒井株式会社 明林繊維 アサヒマカム)

2023/07/06

今回つくるのいえチームがやってきたのは福井県。

海の幸に越前そば、お米、お酒。
福井といえば美味しい物が次々浮かんでワクワクしちゃいませんか?

そんな食に充実した福井は、実はものづくりの国でもあるそうです。
漆器や和紙、眼鏡、刃物などの伝統的なものづくりが根付いている一方で、繊維産業の一大産地という側面もあり、様々な工芸と産業が共存した特殊な地域です。

今回私たちは福井の繊維事業社を訪ね、その多様性をリサーチをしてきました。その様子を2回に分けてお届けします。

輸出で発展した?! 福井の繊維産業

そもそも福井の織物にはどんな特徴があるのでしょう?

歴史を調べてみると、世界の技術革新や競争とともに変化しながら発展したことがわかってきました。

始まりは絹織物から

福井産地の歴史は、絹織物から始まっているようです。日本海からの湿った空気による温暖で多湿な気候や、農作物の育たない冬の副業として、古来から絹織物の生産をしていた地域であることが、続日本書記などの文献からわかっているそうです。

 

西日本側における三大シルク織物の産地といえば、豪華な帯生地の西陣、縮緬着物生地の丹後、そして羽二重生地の福井。

羽二重生地は、「高級着物に使われる平織りで作られた裏地用の絹織物」という定義があります。いわば京都の織物とは逆で、織物の裏方的存在を担っていました。

着物の裏方、羽二重で培われた技術の高さ

少し余談ですが、羽二重という名前の語源について少し調べてみました。

経糸を通す「筬」という櫛みたいな道具があるのですが、その櫛の隙間ごとに2本ずつ糸を通すことから、羽二重と呼ぶようになったのだとか。

羽二重生地は、経糸に撚りをかけない白の糸を使っているのも特徴だそうで、撚りのかかっていない、いわば糸が最高にリラックスしてる状態で織るのだそうです。だからこそ柔らかく、肌に触れて気持ちの良い裏地に最適なのです。

「平織りの白生地が誤魔化しが効かなくて一番難しい織物だ」とよく工場の職人さんから教えてもらうのですが、撚りのかかっていない糸を傷つけないように扱い、しかも織るときにも細心の注意を払う。シンプルかつ難しい織物を量産していた産地ゆえ、世界的に見ても福井が一大産地へと成長していったのかな、なんて思いを馳せます。

伝統の羽二重生地はヨーロッパへと

この羽二重は、明治期になると婦人服や服飾雑貨に使われる欧米向けの輸出に重宝されます。明治期に広幅の羽二重織機を導入し、生産量を増やしていきました。その当時、羽二重の織物工場は3,000以上もあったそうです。

大正期にはパラシュート生地などの軍需で絹織物生産が伸びるものの、諸外国での人造絹糸(レーヨン)の誕生と成長で一時期衰退します。

しかしここで、絹織物だけでなく人造絹糸の製造や人絹の織物へ転換し、輸出の需要に応えていきます。

そして戦後には、ナイロンなどの合繊繊維が登場したと同時に福井も合繊繊維へ転換し、ナイロンやポリエステル素材を生産。

シルクからレーヨン、ナイロン、ポリエステルへ、諸外国が人工繊維を開発していくと同時に、その発展や諸外国の競争とともに福井の繊維産業は発展していきます。

多品種な生地を生産

福井の繊維産地の面白ポイントは、他にもあります。

何か一つの素材や製品に特化した産地と異なり、シルクと合繊繊維用の機械が産地内、あるいは同じ会社内に共存していたり、縫製や加工の業種もあったり、織ネーム・リボン・布テープ・車産業用の素材などのニッチなアイテムを作っていたりと、かなり多品種な素材を生産しています。

 

 

社長日本一は繊維産業に関係がある?!

そういえば、福井は日本一社長が多い県らしいのです。しかも38年連続で一位だそうです。帝国データバンクによると、「国内生産の 9 割以上を担う眼鏡フレーム関連業者や繊維関連企業などの独立資本の企業が多いため」とのこと。

 

これからレポートする繊維会社の歴史を伺うと、会社設立が1960年代〜80年代など、まさに繊維の社長さんが増えていった時代と重なっているのです。

他の伝統産地と比べて新しい企業が多いからこそ、多様な業種の作り手や経営者が多いのかも?!と、勝手に想像力が膨らみます。

そんな、多様性と革新に富んだ会社をこれから覗いていこうと思います。

荒井株式会社 福井の原点、シルクを見守り伝える

今では合繊繊維が産地の主要素材に変わっていますが、現在でも絹織物を製造している工場が多くあります。そんな産地の絹織物の生産を管理し、生地の卸をしているのが産元商社の荒井さんです。

シルクの難しいところは、品質管理や取り扱いの難しさ。荒井さんは糸の仕入れから工場への供給、織り、加工、そして生地の販売までのサプライチェーンを、工場と密な連携を取りながら管理してくれる、いわば現場監督さんのような存在です。

シルクの生地は服飾に使われるイメージが強かったのですが、現在では光学機器や部品を製造する工程での加工パーツなど、非衣料分野で資材として機能性が見直されているそう。

荒井さんは、こうしたシルクの良さや可能性を日々生地を通して伝えています。

https://www.arai-silk.co.jp/

明林繊維株式会社 再生セルロース繊維に特化した産元商社

レーヨン、アセテート、キュプラなど、再生セルロース繊維の生地を扱う産元商社、明林繊維株式会社にやってきました。和装や小物などに使われるレーヨン素材の縮緬(ちりめん)生地の販売から始まり、現在では再生繊維に特化した服地などを扱う珍しい会社です。

強度が弱く、取り扱いが難しい天然由来の再生繊維を専門で扱っているメーカーは、日本にも多くは有りません。

訪問すると、まず最初に驚くのは新築の綺麗なオフィス!

とても綺麗なオフィスと、出迎えてくれた代表の村上貴宣さん

 

新しいオフィスを建てたのは、これから繊維産業に携わる人に向けて明るい未来を示すためでもある、と代表の村上さんがおっしゃっていたのが印象的でした。将来に向けた投資をこうした観点から行っていることが素敵です。

さて新築の会社とは打って変わって、木材の梁が素敵な建物にやってきました。ここは明林繊維の本社の目の前にある、生地ストック置き場。もともと学校だった建物を生地倉庫として活用しているそうです。

 

 

生地はどれも色柄豊富で、こんなにも多品種のテキスタイルを扱っているのかと驚きましたが、さらに驚いたのが、これらが全て後染めであるということ。加工や染色でバリエーションを用意し、1Mから販売できる体制が整っています。

https://meirin-seni.co.jp/

アサヒマカム株式会社 ラッシェル編み機の機能素材

ラッシェルという経編機を使い、機能素材を作るメーカー「アサヒマカム」さんにやってきました。

敷地内に何棟もある大規模な工場で、整経から編み、染色整理まで一貫して行っています。福井県をはじめ、北陸地域の繊維工場は他産地と比較しても大規模の工場が多いのですが、まさに北陸イメージピッタリの規模感。

扱う素材はポリウレタンやナイロン。主に下着に使用される生地を製造し、無地からジャカード柄まで、薄手から厚手の生地まで、世界的に見ても貴重な設備と技術で編み生地を製造しています。

ラッシェル機で作られた合格ハチマキ。フィット感があり、「滑らない」!
程よい伸びと、丈夫さを備えた経編み

整経された糸を縦方向に絡めながら編み込む生地の作り方を、経編といいます。横編みのニットよりも伸びなくて、織物ほど強すぎない。そんな、しっかりしてるけど伸縮性がある素材ゆえ、体に密着する下着などの素材に適しています。

アサヒマカムさんのラッシェル機では、1枚の生地の中で、ギュッと体をホールドさせたい部分と、リラックスさせたい部分を編み組織を変えながら編むことができます。

こうした特殊な技術や設備から、現在では海外向けの生産が増えているといいます。 

歴史的に見ても、輸出が得意な産地だったという特徴が産地取材から見えてきました。福井県内には他にも経編の工場が多く、こうしたテキスタイルの幅が広いのも、福井のおもしろいポイントなのです。

https://www.maqam.co.jp/

シルクから合繊まで、新しい素材を開発し続ける福井県。後編では、織りや編みの業種を超え、さらに面白い工場をリサーチしてきました。そして、今回産地を2日間案内してくださった織ネームを作る松川レピヤンさんが昨年オープンした、エイトリボンや新本社にお邪魔しました!