100余年続く、シャットル織機の定番綿織物 石井織物
100余年続く、シャットル織機の定番綿織物 石井織物

100余年続く、シャットル織機の定番綿織物 石井織物

2017/12/18

Text:近藤弘一 Photo:近藤弘一、仲澤亜希、muk


創業が明治32年(1899年)という老舗の石井織物。真田紐や小倉織の帯地に始まり、2代目からは学生服や作業着の生地製造へ。現在は3代目の八重藏さんがその技術を引き継ぎ、今も変わらず最高級のギャバジン、平織りのタッサーの2種類のみを作り続けています。

100余年続く、シャットル織機の定番綿織物 石井織物

明治から続くというのは、すごい歴史ですね。
私で3代目ですからね。この仕事に入るときだからこの工場も60年くらいで、織機ももう50年は超えてるよ。このトヨタの織機は昭和46年の生産で、残っているのは私のとこだけ。

工場に入ったときは、備前地区の組合に大きい小さいは別として138社ありましたね。今は10社もないでしょう、動いてるとこは。僕はお客さんがたまにこんだけくださいと言うから、仕方なしにやってる(笑) 。これから僕の子供が継続していこうと言ってくれたら教えていくんだけど、この仕事は足しがいるから、今は外に勤めているんですよ。だからまぁ、ものづくりは後継者へ継続したいけど難しいことだね。

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シンプルだからこそ難しい定番の綿織物

どんなものを作っていますか?
生地は全部で4通り。児島で盛んだった学生服・作業服のギャバジン(2/2ツイル)の最高級品を織っています。これは今は介護施設のベットカバーにも使われていて、強くて糊付けをしていないから、このまま使えるよ。

もう一つが平織のタッサーで、病院の白衣や京都の神社仏閣の衣料品に使われています。この2種類で、生地幅がそれぞれ98cmと120cm。実は平織が一番難しいんです。シャットルは飛ぶし、開口は小さいし。全国でこれを作っているところはあっても、同じようなものはないんじゃないかな。やっぱり風合いが良くって、綿100%の織物は日本人の体質にあってると思うよ。

生地がすごくしっとりしてますね。糊付けをしないのはどうしてですか?
付けたら糸が切れないからいいんだろうけど、染工場で糊抜きしないと色がつかんでしょ。使う人が高くつくから紡績工場から糊無しの糸を買って、そのまま織ってるよ。

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織機が生産されてないと言うことは、壊れた時は自分で直されるんですか?
そう。もう50年近く生産されていないけど、最低300台の受注がないと生産しませんと言われている。他のものだと格好は一緒でも耐久力とか性能が違うから使い物にならんし、自動車と同じでメンテナンスしないと。

それで旋盤も溶接機もあって、よく鉄工所と間違われるよ(笑)。シャットルだけは買っているけど、消耗品や部品は無いから全部自分で作る。何をするにも調整によってこの織物ができるんですよ。

今は一人でやられているのですか?
工程は100%全部私がやっている。注文に見通しがつく場合は人にも頼んでいて、多いときは4、5人が来てくれるよ。
これから同じものを作れる人ができるかどうか。初めての人だったら1年や2年しても思うように織れずに失敗を繰り返すと思うよ。とにかく私の気持ちが入っている織物ですからね、常に気を配って作っている。

生産量は時期によって変わりますか?
今は見込み生産で、できたものを倉庫に積んで、受注したらすぐに発送しています。全部の設備をフル運転したら7人くらいいるけど、今は3分の1動かすのが精一杯。整経も人がいるし、調整する人もいるし、最低でも5人はいないとできないね。

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作るものはどれくらいがA反、一級品になるのですか?
検品をするときに許容範囲があるんだけど、3か所の傷まではA反、それ以上はB、C反。C反になると糸代だけになってしまって、電気代もいるし、人件費もいるから足しがなくなるね。だから研究してC反ができないように努力しているけど、6割から7割くらいしかA反はできないんですよ。50メートルを織るとなったら、一日半はかかるからね。それはもう何か出てきますよ。湿度と温度によって調子が違いますから。

傷はどうしてできるのですか?
糸が切れたらもつれができて織り傷ができる。でも衣料品だったら1.5mくらいが基本でしょ?だから裁断するときに欠点箇所を外してくれたらB反も活きてくるんだけど。品質を見てくれれば国内品は良くなると思うよ。

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シンプルな織物をひたすら続けているのは大変なことと思います。
シャットル織機の風合いの良い織物は、うちの組合の衣料品では私だけ。どうしてこの織物を続けている?と良く聞かれるけど、生活するためにやっているんですよ。生活ができないからみんな辞めとるんでしょ。

今はルートマージンの方が儲かるんじゃないかな?責任は作る方だからリスクは少ないし、マージンの方が体を動かさなくていい。児島にも染め工場がいっぱいあったけどほとんど辞めちゃって、作れる場所が減っちゃった。やっぱり人間の生きるビジネスはルートの簡素化が必要ですよ。何をするにも自分で失敗の経験をする社会にならないと、ものづくりができなくなるよ。

機械はここを調整してくださいって、言わないでしょ。製品ができるのを見たり、動いている様子を見て調整する。だからものづくりというのは難しいのかな。自分以外の人があの人の健康状態はどうか、どこか痛いところがあるのかどうかわからないのと一緒で、人間の健康と一緒だね。

世の文明は人の命を取ると親父が良く言っていたけど、機械が進歩するほど、人間が必要な箇所がなくなってしまう。これをどう残そうか、難しいところはそこだった。昔のような機械、シャットル織機の風合いと、今の革新織機の風合いは全然違うんですよ。だからこれはシャットル織機ですよということ、まだこういう織物が国内でもできるんだということを知ってもらって浸透すれば、数字の計算ができるし、子供や次の人に繋げられるね。

100余年続く、シャットル織機の定番綿織物 石井織物

石井織物
住所:〒711-0903 倉敷市児島田の口2883
TEL:086-477-7311