Text:近藤弘一 Photo:近藤弘一、仲澤亜希、muk
西日本で唯一となった、エンブロイダリーレース織機を動かす丸山刺繍株式会社。ここで作られるのはエンブロイダリーレース織機を使った刺繡レースと呼ばれるもので、布にレース加工を施し、生地をそのまま残したり、穴をあけて模様にしたり、下生地部分を溶かし刺繍糸だけを残すなど、幅広い表現が可能です。今回は、レース一筋で50余年の職人・杉本さんにお話を伺いました。
18歳で大手レース工場へ
レースの仕事に就くきっかけはありましたか?
いや、なんとなくですよ。18歳の時に、地元の大手レース会社に入って、初めは機械のオペレーターをして、その後刺繍のパンチングを15年、営業を3年と色々な仕事を回されて約20年おりましたね。その会社ももう嫌だなって思って辞めますと言ったら、お客さんが金出すから、自分でやれって。それが1987年だから40歳のときかな。
今は西日本で唯一となりましたが、当時は盛んでしたか?
ものすごい盛んです。全国では1300台くらいあったんじゃないかな。それも24時間全部動いてました。今は300台あって動いてるのはせいぜい100 台くらいじゃないかな。時間も長くて12時間。今はほとんど止まってるよ。
私も会社を始めて5,6年は大丈夫だと思ってたけど、不況の影響で急に経営が厳しくなってね。その時にアパレルから雑貨も取り入れ、軌道に乗るのに7,8年かかったかな。今では3分の1くらいが雑貨で、柱になってます。
見栄えと柔らかさが定評のパンチング
多くの会社が辞める中でどうして続けられたのですか?
それはパンチング部門があったから。大手さんは金がかかるからってこの工程を全部外注にして、それで今困ってる。
要するに今からやろうと思えばミシンのコンピューターで柄を出して、エンブロイダリーに変換してってやらないとだめで、もうできないですよ。日本でパンチをできる人は50人もいないし、習得するのに10年はかかりますからね。一回やめたら、もう一回ってのがまずできない。だから継続してやらないと。
強みであるパンチングとは?
まず、こういうイメージでつくりたいっていう柄の画が来ます。そしたらそれをパンチャー(パンチングをする職人)がデータに起こすんですけど、その時に画を6倍にするわけです。それを6分の1に戻して織機をこういう風に動かしますよってデータにして、紋紙(パンチングカード)に穴をあけます。そうすると1ミリでも実際は6分の1ミリしか狂わないんですよ。
パンチって針が入ったとこから最後まで一筆なんですよ。一番最初にスタートした場所から、柄をつくるのに一筆でぐーっと作っていってまた次へいくわけです。なぜこの作業をするかというと、この機械は針が全部で1040本もついてますから、針が折れたり糸が切れたり、同じところをつかないように全部をかわしていくわけです。そのために一度サンプル出しをして、試作をお客さんに渡してオッケーが出れば本生産に入ります。
会社によってはパソコンで線を出したりするんですけど、うちは全部手で書いてます。もちろんパソコンでもできるんですよ。でも、線が固くて手作り感が出ないんですよ。微妙な強弱もつけられますしね。
作る人の癖がでるんですか?
でますね。パンチングはカードの長さで金額が決まる部分もありますが、同じものを作っても、他の人が100mかかるものでも、自分がやれば80mでできて、安くなるのに見栄えは良くなるってことはありますよ。
それは何がコツかと言ったら一番最初に目が行くとこにどーんとステッチをかける。あとはスカーンと抜く。とにかく目の行くところに重点をかければいいものはできますよ。
一生懸命いいものを作ろうと、必要ないところまで凝ってしまって作家作品じゃないんだからと。職人はどうしてもやり過ぎるから、ものすごい自信があっても、もっと身になるものを作れと味噌糞に言われて。それから抜くとこは抜いたれって、要は力を入れるバランスだよね。もちろんめちゃくちゃにするわけじゃないですよ、でも葉っぱがいくら綺麗でも花が綺麗な方がいいですからね。それは経験です。
やりがいや楽しみはありますか?
デザインはとりあえず安くしてくれっていう要望が多いからね。でも、うちは日本で一番高いレース屋と思ってます。だから一番最初にうちは高いよ、と言うんですよ。それで断っても、まわりまわって帰ってくるんですよね。
要するに、心に残るものかどうか。決して安くはないけど、安く買えたような気持ちになる見栄えが良いものを作ることが大事だよね。最初にお金を出してくれたところも、2代目になったけど継続して仕事をしているし、ひと昔前は工場に仕事を出してやってるというイメージだったのが、今はやってもらえてありがたいですと言ってくれる人が多くなった。みなさんに生かしてもらっていて、もうそろそろ正月の餅が買えますと言わないといけない時期だね(笑)。
丸山刺繍株式会社
住所:〒709-0802 赤磐市桜が丘西9-24-7
TEL:086-955-7273