現代の新しいレーステキスタイル 音の絵
現代の新しいレーステキスタイル 音の絵

現代の新しいレーステキスタイル 音の絵

2017/12/22

Text:近藤弘一 Photo:近藤弘一、仲澤亜希、muk

今回取材させて頂いた丸山刺繍と同じ、岡山県赤磐市にアトリエを構える「音の絵」。
代表の間野 菜々江さんは、丸山刺繍の技術と職人さんに惚れ込み、この地に移り住んで現代の新しいレーステキスタイルを日々作っています。

現代の新しいレーステキスタイル 音の絵

感動への恩返しと守ること

音の絵をはじめるきっかけは?
元々はベビー服やナイトウエアの企画をしていて、全国の小売店の方のご注文に応じて、作って納めての30年間を過ごしました(笑)。そんな中で赤磐市の近くに縫製工場があって、通っていたんです。それで丸山刺繍さんを紹介いただいて、こんな世界があるんだと驚き、とても興味が湧いたことがきっかけです。そのあと何度か足を運ばせていただき、自分のオリジナルのレースが初めてできた時に本当は感動して。その恩返しをしたいと思い、ご近所に引っ越し、50歳を超えていましたがテキスタイルを作る会社「音の絵」を始めました。

作品はどのように作っていますか?
レースの元になる絵は若いイラストレーターやテキスタイルデザイナーさんに描いていただいてます。またベースになる素材は近江の麻や綿ローン、ウールガーゼなど天然素材を使用しています。よく、レースって織るの?編むの?と聞かれますが、エンブロイダリーレースの場合、刺しています。2色使いなら、同じ色を使う位置へ飛び、4色ともなると、一度2色を刺した布と糸を1から掛け直して、その上からまた刺していきます。

大事にしていることは?
商品は、形にしたブランド名だけが残りますが、レースは名前どころか、番号だけがふられていきます。でも、こんなに素晴らしいレースを見たときに、わたしの名前なんて恥ずかしくなり、音の絵では、製品ではなくレースそのものに名前を付けてみなさんにご紹介しようと決めました。

また絵も自分の描いたものなら諦めたりもすると思うのですが、デザイナーさんが、大きな使命を持って描いてくださっています。妥協したら彼女たちの名前にも傷をつけてしまうので、デザイナーさんが描いた物語のようなあたたかい世界を、そのまま醸し出せるようにしています。これは以前、検品をしてくださっていたパートさんが、「私が縫いはずれに気がつかず出荷してしまったら、間野さんの名前に傷がつく」と言われたことが大きくて、今度はわたしが守らないと、と思っています。

現代の新しいレーステキスタイル 音の絵

これまでどんなテキスタイルを作りましたか?
きっかけとなった初めてのレースが「吾亦紅(ワレモコウ)」という秋に咲く野草をモチーフにしたテキスタイルです。この花は、実際は花びらも無く色もくすんでいるのですが、「われ(吾)も(亦)こう(紅)ありたい」と、花らしく見えなくても自分も花だと主張しているといういわれがあって、私自身とても好きな花です。

これは田村早苗さんのデザインで、基本的に絵は、ピッチが何センチとかわからない方に描いてもらいたくって。どんなレースができるんだろうってこっちもワクワクするんです。

現代の新しいレーステキスタイル 音の絵

やりがいや目標はありますか?
一人も多くの方に同じ感動をさせてあげたいなって、ちょっとおこがましいんですけど。もともとレースというのは、普通の人は身につけられない特別だったもの。それをもっと外に広げたいですし、お客さまが「可愛いって褒められた」なんて、少しでも誇らしい一瞬に関われることがやりがいです。そんな小さな誇りでも、その積み重ねで人は幸せになれると思うんです。

それで興味を持っていただけたら、工場でレースを作ってもらって、それを私がデザインして、工場ももっと仕事が入りますし、絵を描いた女性にも依頼が行って、それの繰り返しをずっとしていきたいなって。丸山さんのところは職人さんの高齢化もあり、作れる数に限りもありますよね。私は、今のレース織機が止まらないように、そして次の時代に残せるようなテキスタイルを一点でも多く作り続けたいと思っています。

ぼあーんぼあーん デザイン:大神慶子さん 音の絵

<ぼあーんぼあーん>デザイン:大神慶子さん
鶏ねむる村の東西南北にぼあーんぼあーんと桃の花見ゆ 小中英之
赤磐市は春にはいっせいに桃の花が咲き乱れ、キジバトや四十雀がやってくる。この歌のように、春霞につつまれて、ぼあーんぼあーんと桃色に見える様子を描いた。

音の絵
住所:〒709-0802 岡山県赤磐市桜が丘西1丁目9-7
TEL:086-958-5278
URL:https://www.facebook.com/mano7e/

出版:「夜中にミシンを踏みながら」(吉備人出版)
自身のフェイスブックの投稿から、選りすぐりの写真や言葉を引き出し、ものづくりの背景や思いを綴ったフォトエッセイ。

夜中にミシンを踏みながら