Magnetic Pole 秩父太織の新しい生産と循環を目指して

Magnetic Pole 秩父太織の新しい生産と循環を目指して

2022/11/08

群馬から秩父、秩父から八王子へ。銘仙の技術はそんな流れで交易の拠点へ届いてきましたが、秩父地域には独自の織物文化が残っています。

それが「秩父太織(ちちぶふとり)」というもの。流通経路に乗らなかった規格外の繭を太く紬ぎ、ざっくりと織って作られる日常着や農作業用の織物でした。

糸を無撚のまま使用することが最大の特徴で、素朴な風合いの生地ですがシルクの柔らかさが残り、控え目で上品な生地になります。実際に触ってみると、まるでカシミヤのような柔らかさに驚きます。

そしてその技術を受け継ぐ一人の女性、Magnetic poleの北村久美子さんが今回の取材のお相手。
近所の養蚕農家さんから繭を仕入れ、工房で生地まで完成させている、すごく省エネなものづくり。持続可能な生産スタイルをしつつ、生地の付加価値は世界に届いています。

秩父へ移住。秩父太織唯一の職人に師事

埼玉県浦和出身の北村さんは学校を卒業後、ものづくり現場に憧れ手織りの世界へ入りました。選んだのは、秩父で途絶えていた秩父太織を復活させた故・石塚賢一さんの工房。

「太織はもともと着尺幅で作っていたものなんですけど、石塚さんはとても先進的な方で、30年くらい前から着物の幅ではなく広幅で手織りをされてて。コート地とかの服地を作っていたんですよ。7年間修行して、それから石塚さんの跡を継ぎました」

広幅生地の受注生産を手織りで

現在は独立され、織工房Magnetic Poleを秩父鉄道影森駅のすぐ近くに設立しました。

現在は主に、洋服のデザイナーさんから注文を受け生地の生産を行っています。

試作をし、企画が決まったら量産へ。
繊維産業ではこれを機械織機で行う織物工場がほぼ100%の中、手織りで、しかもお1人で一貫生産していることにとても驚きました。

手間暇かけて作られる生地はもちろん単価の高い生地になりますが、そういった付加価値を大切にする方からの需要が高くなっているそうです。

生地を作るときは必要な分の繭から糸を手で引き、先染めの場合はこの工房で糸を染めて織っています。お邪魔したときは、ちょうど染め終わった糸を見ることができました。

近所で完結するものづくり

北村さんが仕入れている繭は、太織用に時期を合わせて蚕を飼育しているそうです。そんなパーソナルに繭をオーダーができるの?!と驚きましたが、農家さんがあるのは北村さんの事務所から歩いて数分のところ。近い距離だからこそ、農家さんと密な関係を作り上げることができるのです。

今回は特別にその農家さんへお邪魔することができました。

稚蚕から育てる秩父唯一の養蚕農家

やってきたのは、養蚕農家の久米さん宅。
影森にはかつて多いときで100軒の養蚕農家がいましたが、今は久米さんの1軒のみ。明治時代から養蚕を行っている歴史あるお家で、今回は若干30代前半ながら家業を継いだ久米悠平さんにご案内いただきました。

久米さんのお家では、秩父で唯一卵の孵化から蚕を育てています。

適切な温度で管理されている室内を、特別に開けていただきました。まだまだ細くて小さい蚕が一生懸命桑の葉を食べていて、「かわいいな」と愛くるしい気持ちになります。虫が苦手な人は多いですが、そんな人でも蚕は特別だと感じる人はきっと多いのではないかと思います。

年8回の養蚕で繭の流通を広げていく

久米さんの養蚕スタイルは他と少し異なっているそうです。

「たいていの養蚕農家さんは年に4回繭を出荷するんですけど。うちは場所の広さを活かして一回の量を少なく、品質の良いものを分散して、8回出荷できるようにしています。そうすると、従来のルート以外に繭を提供できる機会も増えるので。だから北村さんにも繭を頼まれたときにお渡しすることができているんです」

北村さんが影森にアトリエを構えたのも、久米さんがいたから。

「影森に来る前に久米さんを知って。そこから繭を頼むようになりました。ちょうど工房を建てる場所を探していたので、繭を仕入れられる所がこんなに近いなら、と思って影森に決めたんです」

さらに現在、研究機関と協力して太織り用の品種を開発中だそう。これからさらに、太織りの可能性が広がっていきます。

材料を作る人、その原料からものづくりをする人。その距離がどんどん離れていきコストや環境問題が浮き出ている現代。そんな中で自分たちの活動範囲内でものづくりが進んでいくことは、未来にとってとても先進的なことなのではないでしょうか。

最近では、秩父太織の生地を使って洋服をつくる方が秩父にやってくるなど、売るところまで秩父で完結することができるようになっているそう。
こうした近い距離間で完結するものづくりや流通は、今後さらに大切になってくるのではないかと思います。

 

北村さんの事務所と久米さん宅の間には、名物のみそポテトを売る名物のおばあちゃんがを町を見守っていました。

 

Magnetic Pole
http://magneticpole.jp/

久米さんに関する他記事
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0903/saitamanougyoudanshi/dai150.html