碓氷製糸株式会社 日本の、そして群馬のシルク文化を守り繋げる

碓氷製糸株式会社 日本の、そして群馬のシルク文化を守り繋げる

2022/11/03

ギザギザとそそり立つ妙義山の山麓、森林に囲まれた静かな場所にたたずむ碓氷製糸株式会社にお邪魔しました。

近代日本産業の象徴的施設でもある富岡製糸場や、絹織物の産地・桐生がある群馬県。街をあるくといたるところに「シルク」や「絹」の文字を見ることができますが、碓氷製糸はそんな群馬県で唯一残る現役の製糸工場です。生産工場としてシルクの街を支えている、碓氷製糸のこだわりとすごさとは?

国内の半数以上の繭が集まる

ここには日本国内で飼育された繭の60%〜70%、つまりほとんどの繭がやってきます。

お米のように、品種や、同じ品種でも飼育された季節によって糸の出来や素材感が変わるシルク。種類によって細かく製糸するタイミングを分け、混ざらないように糸を作っています。

余すところがないシルク

届いた繭はすべて熱処理され、中の蚕を殺してしまうそうです。そこから「選繭」という工程へ行き、生糸になる繭とそうでないものを判別する作業へ。

そういえば、生糸になれなかった繭はどうなるのでしょうか?

案内してくれた方に聞いてみると、「シルクは余すところがない」とのこと。

ここで生糸になれないと判断された繭は、※紬用の糸として織物に使用されるそうです。そして中のお蚕さんは古くから漢方薬としても使用されているほか、栄養豊富なため家畜などの肥料にも重宝されます。最近は高タンパク質な資源として昆虫食も注目されつつあるため、食用としての需要が上がっているのだとか。

ちなみに糸を※精練した後にでるセリシンも人の肌と同じタンパク質。肌につけるとツルッツルになるため、化粧品などへの需要もアップしています。

命をいただいて糸にするため、こうして捨てることなく全て利用できるのは嬉しい。お蚕さんの飼育も、糞まで畑の肥料として利用することができるそう。蚕から糸になるまでシルクはとても循環的な糸なのです。

※紬:繭や真綿をつむいで作る糸
※精錬:シルクの糸を覆っているセリシンを取り除くこと

良質な糸を引くために 技術を集結させた機械と繊細な人の手仕事

繭はお湯や蒸気で煮て柔らかくし、糸がほぐれやすくなるようにします。こうして製糸する準備が整った糸は製糸機にセッティングされ、お湯でゆらゆらと運ばれながら小さなほうきで糸口をかき出され、またゆらゆらと湯につかりながら巻き取るポジションへ。ころころとした繭がお湯の中をゆらゆら動いてる姿が、ちょっと可愛いです。

 

糸口をたぐるところから糸を巻き取るまでの一連の作業を行っているのは、日産製の機械でした。車のメーカーはかつて繊維産業用の機械を作っていたことが多く、トヨタやスズキは織機を、そして日産は製糸機械を製造。そのときに培われた高い技術が今の自動車に活かされています。伝統的な工場の端々に、今なお息づく日本の技術力や精神性を見ることができます。

そして動き続ける機械を止めずにキズや滞りがなく糸を引き続けるためには、やはり人の手も必要不可欠です。機械を絶え間なく行き来しながら消えそうに細い糸に目線を配り、人の目と手があるからこそ、スムーズな製糸は成り立っています。

純国産にこだわりつづける

碓氷製糸が大切にしているのは、純国産へのこだわり。海外の繭を取り寄せるのではなく、日本で飼育された繭からのみ糸を作っています。様々な品種を扱い、多品種の糸を小ロットで製造することも強みの一つ。

見学した日は、皇居でも育てられている品種、小石丸の糸を引いていました。1年で6kg程度の糸しかとれないため、通常のシルクと比べてとても高価。

超少量生産のため、小さめの機械に1人の作業員さんがつきっきりで作業をしていました。糸から目を離さない作業風景から緊張感が伝わってきます。

碓氷製糸が残ってきた秘訣とは?

現在会社規模として製糸を行っている工場は全国でも数件に。そのうち※器械製糸は山形県とここの2社になりました。

これだけ製糸工場が激減している中、なぜ碓氷製糸は今でも稼働を続けられるのでしょうか。

それは、群馬県内で作っているオリジナルの品種を扱っていたことが理由だといいます。糸は原料のため相場があり日々値段が変動しますが、オリジナルの品種は農家さんや製糸工場が原料と糸の値段を付けることができることが利点です。

また、群馬県内には養蚕農家も残っており、県全体で蚕の飼育を守っています。

※器械製糸:動力を使って糸を作る製糸方法

こうした県内の支えもありながら、つねに良質な糸を自信を持った価格で販売し続けていること。碓氷製糸が作る糸が様々な人から信頼されている証拠なんだと思いました。

見学した後はショップでシルクのストールや生地、石鹸などを購入することができます。実際に糸も購入できるそうです。見学や糸の情報は、ぜひWEBサイトをご覧ください!

碓氷製糸株式会社
〒379-0221 群馬県安中市松井田町新堀909