大原織物 デザイナーが頼みたくなる織物工場

大原織物 デザイナーが頼みたくなる織物工場

2021/07/31

Text:森口理緒、Movie:山口明宏、Photo:奥田博伸、大原麻実

 

大原織物は、糸を染めてから生地を作る「先染め」織物を得意とする八王子の機屋さん。ネクタイの製造から始まり、現在は服地やストール向けの生地を主に織っています。多くのデザイナーとものづくりをしてきた経験から、相手の要望を瞬時に汲み取りつつ、求めている以上のクオリティで生地を提案してくれます。

誰もがワクワクする生地サンプル

取材が始まるやいなや、大原さんは椅子に座らず、大きなダンボールを2つ持ってきてくれました。中には過去に作った布のサンプルがたんまり入っています。

「まずはこれね」

「こんなのはどう?」

と、少しニヒルな笑いを含ませながら次々と布を出す姿は、まるで手品師のよう。披露される布はどれもあらゆる素材や色が混ざり、絶妙な風合いと色彩が私たちのの心を一瞬にして掴みます。

デザイナーの要望を瞬時にのみこむセンス

布サンプルを見ながら大原さんに作りたい生地のイメージを伝えると、数回のやり取りだけでいくつもの生地づくりの方向を提案してくださることに驚きました。それは、大原さんがいままで多くのデザイナーの期待に答えてきた経験があるからこそそうした提案が出来るのか、それともこうして提案してくださるからこそ、著名なデザイナーたちが大原さんを頼って集まるのか。

大原織物の代表、大原進介さん

そして、大原さんの工場には10年、20年、時代が変わっても通い続けるデザイナーやブランドがたくさんいることに驚きました。大原さんだからこそ、どんな時代であっても信頼してお願いしたい人たちがいる。他の人に頼んだのでは出来ない布がある。それを叶える技術者がこの街に今もいることを、心から誇りに感じました。

クラフト工場と協力したオリジナルのものづくり

大原織物は長くシルク100%の高級なネクタイ生地を織っていました。1982年にそれまで扱ったことがない素材だった麻のネクタイを織ったことがきっかけとなり、以降シルクだけではなく綿、ウール、麻などを使用して服地やストール・マフラー生地を作っているそうです。

大原さんは今も八王子にある小さな撚糸屋(※)さんでオリジナルの糸を開発するなど、小回りのきく市内の工場と連携して生地を作っています。

そうして生まれた生地は、色や柄が派手ではなくても独特な質感があり、服などのアイテムにしやすい絶妙な色味やデザインがあります。

※撚糸:糸に撚りをかけ、糸に強度を出したり固くしたりする工程

収納技術に見るものづくりの丁寧さ

八王子市の住宅街、小門町にある大原織物は、ご自宅の隣に工場を構えています。まるでアトリエのように見えるその工場は、生活と織ることが一緒にある、東京の暮らしの中に共存する八王子の工場そのもの。

地方の工場と違い、街中にある大原さんの工場では織機が壁ギリギリに設置され、機械と機械の間は気をつけないと引っかかるほどです。どれもこれも、全ての道具が計算しつくされて設置されています。

例えば、タテ糸が巻かれたロールを天井にパイプを組み立てて掛けて保管したり、工場で出る糸巻きコーンにペンをさして柱にかけているのが印象的でした。現場にも大原さんが生み出す布と同じような細やかさが詰め込まれていて、こうした細部への工夫やアイデアが、替えのきかない、世界に唯一ともいえるクオリティの高い生地づくりを生み出しているのだと感じることができました。

 


 

大原織物が初めて織った麻100%のネクタイ。40年以上前に作られたものですが、時代を感じさせないかっこよさがあります。ここから大原織物は、天然繊維づかいの服地製造に変わっていきました。
シャトル織機で使用するシャトルは、糸がつけられたまま保管されていました。シャトル一つ一つが持っているクセが違うため、そのシャトルに合う糸を忘れないためにつけていると言います。細やかな心配りが質の良い布に繋がるのです。
工場の中には機械や糸が敷き詰められています。大原さんは、機械や道具の間を慣れた動きですり抜けながら作業を行なっていました。

有限会社 大原織物

[代表]
大原進介

[所在地]
〒192-0054 東京都八王子市小門町8-19

[創業]
1900年

[設備]
織機6台、整経機1台

[情報]
初代創業は1900年頃。小門町の現在の場所に分家として父、大原英雄さんが大原英雄織物工場を1960年に創業。創業当初からネクタイを製造していました。現代表の大原進介さんは1976年に跡を継ぎ、現在45年目。1982年に麻のネクタイ、1985年にウールのネクタイを織ったことをきっかけに、シルク素材以外の素材も扱うようになりました。1985年、コンピュータジャカードの設備を導入。以降、八王子ファッション協議会展示会、八王子織物組合主催展示会等での新規顧客からの依頼でマフラーやストール、服地を織り始め、1980年代後半からネクタイにこだわらず様々な織物を手がけるようになりました。
ミナペルホネンの皆川明さんとはブランド創業から現在まで、数々の作品に携わっています。

 


 ※本記事は『日本遺産「桑都物語」推進協議会』からの委託により(株)奥田染工場が「つくるのいえ」名義にて実施した調査に基づいて作成したものです。