創業明治21年の老舗が広げる帆布の可能性 タケヤリ
創業明治21年の老舗が広げる帆布の可能性 株式会社タケヤリ

創業明治21年の老舗が広げる帆布の可能性 タケヤリ

2017/12/22

Text:近藤弘一 Photo:近藤弘一、仲澤亜希、muk

岡山県倉敷市は帆布の国内生産シェア70%という一大産地。株式会社タケヤリは明治21年にこの地に創業し、時代の移り変わりと共に、帆船、トラックの幌、ワークウエア、トートバッグなど、用途を変えながら常に進化する100年以上続く帆布専門のメーカーです。

帆布とは10番単糸を撚り合わせ、平織りにした厚い生地のことで、耐久性と通気性に優れているのが特徴です。また、10番単糸を撚り合わせる本数により厚みが変わるという、とても効率を考えられた織物で、厚みが増すほど号数(生地の厚みを表す数字)は小さくなります。

タケヤリは帆布に特化することで、他ではできない1〜3号の厚手から、11号までのすべての製造を手掛け、経糸の整形から織、仕上げに至るまでを一貫して人の手が入ることで、風合いの良い高品質な帆布を織り続けています。

今回はそんな老舗の新たな時代を担うリテールディビジョン(小売部門)の大岡さんと、東京からシャットル職人を目指し入社した若手の職人・佐藤さんにお話を伺いました。

大岡さんが所属するリテールディビジョンができたのは約6年前。それまでは賃織り加工(依頼を受けて織り出荷する)と定番の帆布の販売だけでしたが、賃織りだけでは今後厳しくなるだろうと、武鑓会長が製品部門を立ち上げました。

オリジナル生地「備前壱号」が導いた運命的な出会い
今はどんな仕事をしていますか?
私は立ち上げから1年後に入社し、今は帆布の販売と、お客様の要望を聞いて生地や加工をして形にするOEM、自社商品の生産管理を行なっています。また、最近は生地の開発も出来るようになってきました。

タケヤリに入るきっかけは?
石川さんというタケヤリの顧問をしていたおじいさんがいて、前に、備前壱号(シャトル織機で織った高密度のツイル)という生地を見させてもらったことがありました。その生地がすごく良くって、前職でいろんな生地を見て来ましたけど、触った時に存在感があって、こういう生地を織れることが単純にすごいなと、印象に残っていたんです。

それで退職して東京にいる時に、タケヤリが新しくできた小売部門の営業を探しているという話を聞いて。企画しかやったことがないけれども、手伝えることがあるかな、と石川さんや武鑓会長とお話をして仕事をお手伝いすることになりました。

最初は東京駐在で働いていたのですが、帆布のキバタで生成りしかない中で商売するのは無理があると思って。商社では色も品数もかなり積んでいたので、東京で営業だけするのは厳しいと思い、岡山が地元だったこともあって帰ってきました。

タケヤリに入るまではどんな仕事を?
大学ではテキスタイルデザインを専攻していて作品作りはしていたものの、服自体を作りたいと思っていた訳ではなくて、大学卒業後にご縁があり前職の生地商社に就職しました。担当はメンズの企画で、トレンドの分析や、産地の人と話をして生地を作ったり、柄を考えたりと、幅広く生地を見ることができました。会社が大きいからこそ出来る経験を沢山させてもらって感謝しています。

創業明治21年の老舗が広げる帆布の可能性 株式会社タケヤリ

ものづくりの全部を知れるというやりがい
タケヤリに入って変わったことは?
前職では企画をして産地の人と生地を作ることはありましたが、実際原価がいくらであったりとか、なんとなくしか把握できていなくて途中の部分だけをやっている感じがしていました。
今は、糸の仕入れから、織って、組成がいくらで原価がいくらで、売りがどれくらいで、どういう製品になるかまで全部を見れます。また、自社商品では、生地作りから縫製の仕様や生産計画までみんなで相談して決めていて、販売に立てば対面でお客様に届けるところまで見られます。
例えば、お客様に商品の色が買った時と変化してしまったと相談があれば、直すことはできなくても染色工場に連絡して対応策やその要因も聞く事ができます。作る工程がすべて分かっていることでちゃんと説明ができますよね。それは全部見ているから、小さい会社だからこそできる面白い部分です。

創業明治21年の老舗が広げる帆布の可能性 株式会社タケヤリ

初めてのことばかり、だから楽しい
新しいことが多いと思いますが、どうやって進めるのですか?
今進めている海外の輸出も初めての試みで、営業のリーダーの賀川と相談して、展示会どうする?輸出する時どうする?って、わからないことだらけで全部が初めて。会長も任せてくれるというか、会社に経験がない事を進めるので、その分色々と挑戦をさせていただいています。前例がない分、当然ロスは大きいかもしれないですが、自由に組み立てもしやすく、新しいことをやるのは苦じゃなく楽しいです。

また営業スタイルも決まった形がなく、生地が得意なら生地を、商品が得意なら商品を増やすみたいに、それぞれで違っています。歴史のある会社ですが、その辺は自由さがあり得意なことを活かせるので働きやすいですね。

仕事で大変なことは?
前例がない事が多いので正解は自分たちで見つけないといけない事は大変です。この部署では決められた仕事がしたい人にはしんどい環境だと思います、多分。なので、自分で開拓して、その道筋を作れる人が向いています。
営業をはじめたばかりの頃、数量の大きな仕事をもらいました。帆布がすごく厚地すぎて、染めたのに乾かないという問題が発生したことがあって。結局、周りの工場の方や知識のある人達に助けてもらい解決したのですが、その時はどうしようって泣きましたね。はじめての取り組みが多いので、予測できない事が起こった時は解決策をみつけるのに苦労します。

強みやこれから取り組みたいことは?
自社製品の販売をしはじめてから、帆布の問い合わせやOEMも増えるようになりました。特にOEMでは、自社の製品作りを始めたことで厚手の帆布でも縫製出来る生産ルートにも広がりができ、要望に合わせて豊岡、児島、大阪、東京などを使い分けができます。帆布のことであれば、様々な会社とのやりとりの経験があるので色々な提案が出来ることが強みです。

また、営業の人たちも若い人が活躍しています。商品とOEMと生地の全部を営業が提案できるようにしていて、最初は商品の話で行っても、オリジナル商品をOEMで作ったり、または生地の提案をしたりと3つ武器があるのは強いですね。メンバーはリーダーの賀川くんがみんなを引っ張ってくれていて、まだ20代後半なのにとてもしっかりしていて頼り甲斐があります。他の営業の人たちもみんな20代と若く、飛び込みもしますし、どんどん進んでいく勢いがありとても心強いです。

これから取り組みたいことは、生地を増やすことです。今、展開している生地は、帆布の定番と、ツイルの素材で備前壱号、壱等雲斎、お客様毎の別注です。まだまだタケヤリの生地は種類が少ないので、強みを活かしながら定番を増やしていって、もっと知ってもらいたいです。

ここからは職人・佐藤さんのことを。生地というのは機械が勝手に作ってくれるのではなく、必ずどの工程にも人の手が入ります。特にタケヤリで使われている旧式のシャットル織機ともなると、風合いが魅力的な一方、動きはとても不安定で糸の入り方も不均一。そのため、常に動きを見て、調整しながら織っていく必要があります。

産地に、それも東京から職人さんとして機屋に入るのはとても稀で貴重な存在です。今回はどうしても紹介をしたく、後日メールでコメントを頂きました。

職人を目指したきっかけは?
東京造形大時代に授業で訪れた、八王子のミヤシンさんで働かれている職人さんに憧れて。大学を卒業後、岡山でデニム生地が主製品の機屋へ入ろうとしたものの、職人枠が決まってしまったと断られました。シャトル織機が現役で稼動しているタケヤリをたまたまインターネットで見かけて入社しました。

今の仕事と、シャトル織機の特徴は?
主な仕事は、機織りももちろんですが、機掛けや組替え、織機のオイルとグリスアップ、故障したときの修理、パーツ交換です。シャトル織機は本当の意味で機械仕掛け(デジタルではなくアナログ)が特徴で、織物は空気を含んで明らかに風合いが違い、耳があるのが特徴です。

目指す職人像と、将来やりたいことは?
シャトル織機の事なら全てを理解し、難しい織物にも挑戦していくこと。今後はキッカケがあれば個人工場みたいことをやりたいです。

職人と言えば、熟練による細かな手作業というイメージがありますが、織物の場合は織機をどう活かすか、理想の織物を作るための引き出しをどれだけ持っているか、ということになります。機械に任せっきりでできるのではなく、ゆっくりと動くからこその柔らかな風合いは、調整という人の手が入っているから味が生まれる。伺った日も会話するように一つ一つの織機の動きを眺め、触れている姿が印象的でした。

創業明治21年の老舗が広げる帆布の可能性 株式会社タケヤリ

株式会社タケヤリ
住所:〒710-0146 岡山県倉敷市曽原414番地
TEL:086-485-1111
URL:http://www.takeyari-tex.co.jp/