澤井織物工場  独自の革新を続ける伝統工芸士がいる織物工場

澤井織物工場  独自の革新を続ける伝統工芸士がいる織物工場

2021/10/25

Text:森口理緒、Photo:鈴木竜馬、奥田博伸、大原麻実、森口理緒

伝統工芸士は、その道を極めて黙々と作業に打ち込む人。そんな固定観念をくつがえす、自由で柔軟な織物工場が八王子にあります。
人に会いコミュニケーションを重ね、生み出したアイデアを工場に帰って形にする、活動的な伝統工芸士がいる工場にお邪魔しました。

手織りから機械織りまでこなす

photo by 鈴木竜馬

八王子の市街地からひと山超えた高月町にある織物工場、澤井織物工場。周りには田園が広がり、とてものどかな町です。
澤井織物は1900年ごろ養蚕を始め、次第に手織りの工場へと変化しました。
今回お話を伺ったのは、澤井織物工場4代目の澤井伸さん。深いホリにシルバーの髪とヒゲを生やしている、俳優さんのような出で立ちです。

「手織りから考える」ベースの手織りを機械織りに活かす

photo by 鈴木竜馬

澤井さんは「多摩織り」の着物生地を手織りで制作する伝統工芸士でありながら、1995年ごろに自動織機も導入しマフラーやストール、服地まで幅広い生地を製造しています。

伝統的な多摩織りの制作だけに手織り機を使っていると思いきや、現代の織物開発においても手織り機の出番はとても多いのだそう。

どんな織物の開発・製造でも「全ては手織りから考える」とおっしゃる澤井さん。手織りで作れる良い風合いをどう機械で量産するか。手織り機と培った技術を活かし、マフラーなどの開発や量産に繋がっています。

織れるものならなんでも織る

photo by 鈴木竜馬

たとえ糸じゃなくても、織れるものは何でも織るという澤井さん。中でも一番驚いたのは、太い銅線を手で織っていること。これは工業資材として静電気を放電するために使用されるそう。

手織りは織物を作るのに時間がかかりますが、人の手加減で様々な素材・太さの糸を織ることができることが良いところ。ハイテクな製品にも、クラフトでしかできない技術が活かされていることにとても感動しました。

工場にいない職人?

photo by 鈴木竜馬

織物工場は自分で作りたい布を実際に形にできる場所。だからこそ、「こんな生地織れませんか?」という要望を聞いたり、自分の工場で何ができるのかをプレゼンテーションしに行く必要もあります。

澤井さんは工場にいて糸や機械に向き合うだけではなく、他の産地へ赴きアイデアをこしらえて帰って来くることも多いそう。工場で働く若手の従業員たちが、澤井さんのアイデアを形にするために日々奮闘しています。

まるでラボのような工場

澤井織物の敷地内には、いくつか小さな建物が点在しています。一つは手織りを行う工房。もう一つは、狭い幅の織物を作るシャトル織機がある建物。そしてもう一つは、広幅の自動織機が置かれた建物。

それらの3つの建物の中心には、ビニールハウスが新たに作られました。そこでは生地の染めができるようになっています。

建物を行き来しながらあらゆる規格の織物や染物を試すことができる「ラボ」のような工場。東京であらゆる布づくりの実験ができる風景が見られるのも、広い敷地がある八王子ならではです。

他産地と連携した、これからの取り組み

澤井さんに、ここ数年の取り組みをいくつか紹介していただきました。

一つは奄美大島の伝統的な織物とのコラボ。織物を作る際に余ったタテ糸を使用し、新たな織物を作るアップサイクル的なプロジェクトだそうです。

もう一つは、お蚕さんが食べる桑の葉っぱを使用し、澤井織物で織ったシルク生地を桑の葉で染める事業。ビニールハウスの染め場は、この事業を進めるために作ったそうです。

澤井さんは外からコラボや新しいアイデアを持って帰り、ご自身の工場を日々アップデートさせながら常に新しい布の開発に取り組んでいました。織物の技術を様々な角度から見ることができる澤井織物。織物の技術を使って何か開発したい方は、ぜひ澤井さんを訪ねてみてください。


澤井織物

[代表]
澤井伸

[所在地]
東京都八王子市高月町1181
042-691-1032

[設備]
手織り機
シャトル×ドビー織機
レピア×ドビー織機
整経機
その他準備工程用の機械

[創業]
1900年(推定)

[情報]
手織り機では紬の着尺から工業資材用の銅線まで織る。一方、1995年ごろから自動織機も導入し、現 在は7台のドビー織機が稼働。従業員は計 7 名


 ※本記事は『日本遺産「桑都物語」推進協議会』からの委託により(株)奥田染工場が「つくるのいえ」名義にて実施した調査に基づいて作成したものです。