Text:森口理緒、Photo:奥田博伸、大原麻実、森口理緒
八王子駅からほど近い天神町にある木造建の民家に、糸に撚りをかける「撚糸」業を営む工房、森田商店はあります。布を織る・編むだけではない、糸風合いを作る撚糸の面白さを森田さんに伺いました。
畳の上から漫談がはじまる
捩り鉢巻きがチャームポイントの森田さんは、とてもおしゃべり。畳の上で正座する森田さんのお話を土間から見上げて聞いていると、まるで講談師の話を聞いているように感じます。
今まで作ってきた糸を見せてもらいながら、撚糸の面白さや糸の特性を楽しく教えてくださいます。
撚糸とは?
撚糸は、糸をねじることで糸に強度を持たせたり硬くさせたりする工程。「ねじる」といっても、指で2〜3回糸をくるくるする訳ではありません。何十、何百、多い時には何千回もの回転を糸にかけ、糸を硬く丈夫にしていきます。
撚りの世界は想像以上に深く、強度を持たせるために行われるだけではなく、違う性質の糸を組み合わせて表情のある糸を作ることもあります。
そのため、生地を柔らかくするためにわざと糸に撚りをかけないこともあります。
撚糸工場は基本、生地の原料となる糸を扱うため、扱うロットが大きく、工場の規模も大きい会社が多いですが、森田さんは住居スペースと繋がった小さなこうばで、1台〜2台の撚糸機を細々と回し、他ではやりたがらない難しい糸の撚糸を小ロットで請け負っています。
貴重なアーカイブと技術の数々
下の写真のような糸は、「意匠糸」と呼ばれるもの。糸をねじるスピードを調節したりわざとずらすことで、片方の糸が絡んだり縮れて膨らみのある糸になります。
アナログな機械で作るからこそ、機械や部品のちょっとした調節で様々な糸を作ることができるそうです。撚糸屋さんは機械にとても精通している人が多いですが、それは糸一本を扱うために微妙な機械の調節を日々行なっているからだと思いました。
森田さんは今でも、八王子の織物工場から依頼を受け服地用の特殊な糸を作っています。織物工場と撚糸工場が日々一緒にものづくりをしている光景はとても珍しく、ファッション産業を支えていた八王子ならではのあり方だと思いました。
森田さんの撚糸でしか作れない生地の風合いがあると思うと、糸の風合いは生地づくりにとても影響を与えていることがわかります。
森田さんは現在、作家さんからの依頼や特殊な糸の撚りを行なっています。最近は弦楽器の琵琶の弦を撚ったそう。近年、弦をナイロンなどのテグスで賄うことが多いですが、シルクの太い糸を撚って張ったことで、とても良い音色の琵琶になったそうです。
撚りの話をすると、止まらずに永遠と語る森田さん。撚糸の話をするときの顔はとても嬉しそうで、森田さんは先代から言われた「機は撚りだ」という言葉を大切にされているそうです。
個性のありすぎる糸は、布になったときにあまり良くない。
布になった時のことを考えて良い風合いの糸を作れるかが、撚糸の面白く難しいところだとおっしゃっていました。
どうしても生地を織る人が注目されがちですが、以前は撚糸の工程からこだわった生地づくりが頻繁に行なわれていたそうです。糸の風合いがダイレクトに生地の風合いになるのが織物や編み物。
あらゆる要望に応えて糸を作っている森田さんに、ぜひ糸づくりを頼んでみてはいかがでしょうか。
森田商店
[所在地]
〒192-0074 八王子市天神町13
[創業]
1940年(推定)
[情報]
先代が小門町にあった撚糸工場で学んだのち、約80年前に森田商店を開業。現在までイタリー式とリング式の撚糸機を使用して撚糸を行なっている。通産省の受賞経歴もある。
※本記事は『日本遺産「桑都物語」推進協議会』からの委託により(株)奥田染工場が「つくるのいえ」名義にて実施した調査に基づいて作成したものです。