桐生整染商事 デザインを学び、桐生の工場へ。生活と仕事に境界線のない彼女の生き方とは

桐生整染商事 デザインを学び、桐生の工場へ。生活と仕事に境界線のない彼女の生き方とは

2022/09/30

2回にわたりお送りしている桐生整染商事。後編は、桐生整染に勤め8年目になる川上由綺さんです。多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻を卒業後、東京ではなく群馬県桐生でテキスタイルに携わることを選びました。

「ものづくり現場から試行錯誤の中で生まれるデザインや布を大切にしたい」という考え方と、一つの会社に所属しながら積極的に街に関わる生き方についてお話を伺いました。

美大でテキスタイルデザインを学び、織る現場を選ぶ

大学卒業後、新卒ですぐに桐生への就職を決めた川上さん。大学4年生のときに日本全国の繊維産地を巡り、人の縁が数珠つなぎになって桐生に行きついたそうです。

「はじめは京都の泉工業というラメ糸屋さんを紹介していただきました。そこの営業の方がとても親切でいろいろ他の産地を紹介してくださって。そのときは西日本のエリア、特に西脇産地を回りました。そんな中西脇でhatsutoki(ブランド)をやっている村田裕樹さんが、桐生でフリーランスのテキスタイルデザイナーをやっている畠山陽子さんをご紹介してくれて。そこから興味を持ちました」

「畠山さんはフリーランスで織物の企画やジャカードの紋意匠をデザイン、設計する方なんですけど。産地に属しているとても貴重なデザイナーなので、そういう方が活動できる産地なら行ってみたいなと思ったんです。畠山さんに就職について相談したら、今の会社を紹介してくださって」

ー多くの学生が都内のデザン会社に入っていく中、なぜ川上さんは桐生に移住して織物工場で働こうと思ったんですか?

「大学在学中にフィンランドのアールト大学で学んだんですが、そこでデザインとの向き合い方がちょっと変わったんです。留学先では物を作るとき、『これを量産するにはどうすれば良いか』というのを常に考えるんです。作家性よりも、社会性を重視するんですよね。私がやりたいデザインはこっちだと思ったんです。デコレーション的な意味のデザインではなく、構築的なデザインをしたいなと思った時、真っ先に浮かんだのが機屋さんでした。機屋さんなら、実験しながら試行錯誤して物を作れるぞ!って思ったんです」

シルクに助けられている日々。その良さを伝えたい

昨年誕生した、桐生整染商事のオリジナルブランドSILKKI。このブランドは川上さんが企画や製織、ディレクションを担当しています。

ーシルクをテーマにしたブランドを立ち上げたのはなぜでしょうか?

「会社の中では、お客様に喜んでいただける生地を作るのが一番の仕事なんですけど、今までの規格だと限界があると思い始めていました。シルクをメイン素材に使って織物を作ることで、ものづくりの幅が広がるかなと思ったのがきっかけです」

ー数ある素材の中でなぜシルクだったのでしょうか?

「桐生でよく作られているファッショナブルな生地は、見る人も着る人もけっこう限られているんです。私はもともとプレーンで着心地や風合い重視の生地も好きだったので、そういった生地の提案ができたらと思っていました。だからこそシルクだったのだと思います。実際、冷え性がひどいときにシルクの靴下に助けてもらったりもしていて。SILKKIを通して自分が実際に感じているシルクの機能性だったり風合いを伝えられたらと思っています」

手織り、養蚕、コミュニティ。桐生の街をいっしょに作っていく川上さんの生き方

―職場以外でも手織りをしたり養蚕農家さんに行ったり、なぜ休日でも繊維や街に積極的に関わっているのでしょうか?

「お金にはなりにくいかもしれないけれど、情熱を持ち続けている職人や作家さん、農家さんたちがいる。大事なことや忘れてることがこの世の中にたくさんあることを、街の人と関わることで日々感じることができることが楽しいんです」

繊維産業に携わっている若手も多くいますが、どうしても会社と家の行き来だけになってしまったり、お互いの会社が何をやっているのかまったく知らない現状もあります。そうした中川上さんは、若手たちの集まり「いとへんの会」を立ち上げ、学び合いや交流の場をつくっています。全国の繊維産地の面白い取り組みをゲストを招いて紹介したり、実際に桐生の工場へでかけてワークショップなどもしているそう。この会を通して桐生の人同士だけではなく、八王子や富士吉田といったほかの繊維産地とのつながりも生まれています。

こうした川上さんの活動もあり、桐生の街には多くの若者がUターンやIターンをしお店やブランドを始めたり就職したりと、街の活性化に繋がっています。

社員として仕事をしながら、テキスタイルの展示に出展したり、いとへんの会などの交流会を立ち上げたり、自社ブランドを引っ張っていく。会社の社員という枠にとらわれず、川上さんが大切だと感じていることを一つ一つ実行していく姿勢にとても感銘を受けました。

ー川上さんのような社員の存在を専務はどのように向き合っているのでしょうか?

専務「僕はスピード調整役ですね(笑)。ちょっと突っ走りすぎるな、と思ったら川上にブレーキをかけたりもしますよ。もちろん会社としての判断も大切ですから。でも、SILKKIのときはむしろ『いけー!』って言いました(笑)」

そして、今年から桐生整染商事に川上さんの後輩になる新入社員が入りました。

「やっぱり会社は若い人の力を借りないと」と専務。会社に新しいエネルギーが入り、街にも還元されていく。桐生整染商事は生地だけでなく、こうした素敵な循環も作っているのです。

桐生整染商事株式会社
群馬県桐生市川内町2-618-1
Tel:0277-65-9111
Fax:0277-65-9131
Email. k-seisen.fashion@coral.ocn.ne.jp

Kiryu seisen shoji co., LTD.
https://kiryutextile.com/distinctive-weavers/kiryu-seisen-shoji/

SILKKI
https://silkki.shop/