桐生整染商事 素材をよく知り、手を動かす。布への探究心に溢れたテキスタイルメーカー

桐生整染商事 素材をよく知り、手を動かす。布への探究心に溢れたテキスタイルメーカー

2022/09/21

群馬県桐生市で織物生地の企画、製造、販売を行う桐生整染商事。
事務所に入ると生地ハンガーがビッシリとかかっている光景が私たちを出迎えてくれます。

無地やボーダーなどのシンプルな生地から、どうやって作っているのか見当もつかないような特殊なものまで。同じ会社からこんなにも豊かなテキスタイルが作れるのかと、思わず一枚一枚触ってじっくり見たくなるようなものばかりです。

ここで働くみなさんに共通していると感じたのは、素材への深い探求心。
今回は特別に前編と後編2回にわたり、桐生整染商事を取材しました。
前編では家業を継いだ専務の阿部哲也さんに、後編は東京から移住し桐生整染商事に就職した川上由綺さんにお話を伺いました。

家業を継ぐものだと思っていた

ー阿部さんは最初から家業を継ぐつもりだったのですか?

「父親からは言われなかったですけど、母親から『あんたは継ぐ!』って言われていました(笑)。だからか、小学校の時から継ぐんだろうなとは思っていましたよ。大学4年の時、家の仕事に入る前にアパレルに入ろうと思っていたんですけど、就職活動時期に会社がすごく忙しい時だったんです。手伝ってたらそのまま会社に入社していました」

会社が海外へテキスタイルを販売していたこともあり、海外の大学を選んだ専務。学生の頃から将来は家業を担うという意識が自然とあったことが伺えます。

周りの協力工場と連携し、幅広い生地が作れる

「自社の機械だけではなく、桐生を中心とした工場と連携して織りやニット、レースなどの生地を作っているのが私たちの特徴です」と、自社の強みについて語る専務。 

織物だけではなくあらゆる技法や手段を知り、要望に併せて選択肢を引き出す。30年以上さまざまな工場と生地を製造してきた専務だからこそ作れる生地があります。

技術、アイデア、人。かけ合わせで生まれるこだわりぬいた生地

今回の取材でなんとなく手に取った、とても不思議な生地。写真をお見せできないのが残念ですが、黒地に超立体の柄が浮き出ている生地でした。

「とあるブランドからの依頼で作ったんです。まだ公開前の生地なんですけど、超立体の柄の生地が作りたいという要望で製造しました。ただ、織りの技法で柄を作っても希望の立体感を表現できなくて。ベースの生地はうちが織物で開発し、柄は特殊なプリントと加工技術で作りました。生地の洗いが間に合わなくて、この事務所の外で僕がひたすら生地を洗ったんですよ(笑)。デザイナーさんがとても気に入ってくれてすごく嬉しかったです」

どんな技術や方法を組み合わせればイメージの生地ができるのか。常にベストな方法を提案してくれる専務の存在は、デザイナーにとってとても心強い存在です。

「シルクの生地をもっと提案したい」社内の声から誕生したSILKKI

昨年誕生した桐生整染商事のオリジナルブランド、「SILKKI」。シルクの機能性や良さを伝えつつ、生活に根ざした心地よいデザインの製品を提案しています。

ー桐生整染商事ではもともとシルクの生地を多くは製造していなかったと聞きましたが、なぜ改めてシルクに注目したのでしょうか?

「(社員の)川上から、肌にもやさしくて高機能なシルクの生地をもっといろいろな人へ提案したいと言われたんです。けれどシルクの生地はどうしても高くなるから、正直なかなか注文に繋げられないんです。だったらいっそのこと製品にして売ったらどうかと思って、オリジナルブランドを立ち上げました」

シルクの神様、木村さんの存在

「私にとってのシルクの神様、師匠的な存在がいるんですけど」と、専務の口から興味深い言葉が。

ーそれはどんな方ですか?

「僕が会社に入った20、30代のころ会社にいた方で、小さい頃通っていた剣道の先生でもあり、ずっと他の会社でシルクの織物を手掛けていた方でした。ものすごくシルクに詳しくて、生地の設計書や問題点をこと細かく日誌に書いていたんです。でもシルクの生地は高いので、営業としてはすごく売りづらかったんですよ。他の社員は『シルクなんて営業しても仕方ない』と言って避けていましたね」

「誰も木村さんに見向きもしなかったんですけど、僕は木村さんが残してたアーカイブや生地がなくなるのは勿体無いと感じてて。売りづらいけど、やっぱりシルクは肌へのやさしさも機能性もすごく良い。とりあえず知識だけ入れておけば何かの時に役立つだろうと思って、木村さんが毎日書いていた生地の設計書を読んだり、わからないところを質問していました。今思えば、その時にシルクの難しさと凄さを師匠から教えてもらっていたことが、今のSILKKIに繋がっているのかも知れません」

桐生の街と一緒にSILKKIも一緒に盛り上げたい

こうした背景から生まれたSILKKIのお店が、桐生駅近くにある桐生整染本社の一角にオープンしました。シルクのぬくもりがそのまま空間になったような優しいお店です。

ー桐生には今若い人が集まって商店街でお店やブランドを開いていますが、専務が学生だった頃と比べてどんな印象を持ちますか?

「僕が高校生のころは、商店街がまだ盛り上がっていました。本当におしゃれなお店も多かったし、桐生にBEAMSまであったんですよ!(笑)。けど繊維産業全体の衰退と一緒に街も寂しくなってきて。ようやく今また活気がでてきて、すごく良い傾向だと思います。その中にSILKKIも入っていけたらいいなと思いますね」

新たに仲間入りした「シルク」という強み

ブランドを始めてからシルク生地の注文も増えたという専務。もともとあらゆる種類の生地を作ることができますが、さらに強みが増えました。ブランドに裏付けされた生地が、新しい生地を産む手がかりになっています。

色柄豊かな生地から、プレーンで心地よい生地まで。専務を始めとしたスタッフが日々生地づくりに情熱を注ぐ風景はこれからも続いていきます。

後編は、若くして産地に飛び込んだ川上さんです。社内でテキスタイルデザインをしながら、SILKKIの運営や街での活動をしている川上さんの生き方と仕事に注目しました。

桐生整染商事株式会社
群馬県桐生市川内町2-618-1
Tel:0277-65-9111
Fax:0277-65-9131
Email. k-seisen.fashion@coral.ocn.ne.jp

Kiryu seisen shoji co., LTD.
https://kiryutextile.com/distinctive-weavers/kiryu-seisen-shoji/

SILKKI
https://silkki.shop/