Text:森口理緒 、Movie:山口明宏、Photo:奥田博伸、大原麻実、森口理緒
有限会社佐藤ニットは、ホールガーメントでニットを製造している工場。バブル終焉後の90年代〜2000年代に次々と周りの工場が廃業して行く中、佐藤ニットさんは設備や業務形態を変え、現在でもニット製品を作り続けています。そこには、現代表の佐藤祐幸さんと3代目になる敦彦さんの、鋭いアンテナと物事を柔軟に受け入れる姿勢に秘密がありました。
ファッション産業衰退時に生き残った佐藤ニット
1960年に創業した佐藤ニット。昭和初期から中頃までは、佐藤さんの他にも八王子にはニット工場がいくつもあったそう。手で機械を動かす「手横」という機械を使うため、家の空きスペースで始められる産業だったといいます。しかし八王子のファッション産業が陰り始めたバブル崩壊後、周りの工場は八王子の問屋さんから仕事を受けていたため打撃が大きく、廃業の加速は一気に進んでいったそうです。一方佐藤さんは、都心だけでなく地方からの仕事も受けていたことで、周りほど影響を受けずに済んだそう。
企画を学んだからこそ導入できたホールガーメント機械
佐藤さんがホールガーメント機を導入したのは、2010年のこと。それまで横編み機を使用し、四角に編んだ生地を納めていました。編み地を納める工場は素材を提供する下請けになりがちですが、ホールガーメントは服の形で機械から編み地が出てくることが最大の特徴。そのため、ニットメーカーは服の形を設計する業務も担います。
3代目の敦彦さんはご自身がニット工場に入った経緯について、「特にやりたいこともなくて、ただ流れで会社にいる」と静かに言います。一見消極的な気持ちで家業をやっているのかと思いきや、敦彦さんは工場に入った当初から調布のニット工場へ企画を学びに修行へ出たり、パターンを学びに夜な夜な服飾学校に通っていたそう。その姿からは、淡々としつつもニット工場で何ができるか常に考えている熱い思いを感じることができました。
ホールガーメントが持つ魅力
ホールガーメントは別名、無縫製ニットと呼ばれています。服のほとんどは現代においても人の手によってひとつひとつが縫製されています。ホールガーメントは、専用の編み機から一着の服が編み上がる日本の編み機メーカー、島精機が開発した独自のニット機です。
ホールガーメントで編まれたニットは、縫い目が肌にぶつかってしまうような着心地の悪さがなく、優しく体を包み込んでくれます。
勘良く流される、柔軟で熱い姿
敦彦さん曰く、基本依頼を断らないのが工場のモットーだそう。多少難しい依頼であっても、相手の要望をどう形にしていくかが、メーカーの仕事だと語っていました。また敦彦さんは現在、文化服装学院で講師をし、ニットの授業を受け持っているます。学生からのガツガツとした熱量を受ければ受けるほど、それに応えようと燃えるよう。
自分にとって刺激になるか、会社にとってこれからプラスになるか、常にアンテナを張りながら面白い提案や要望に全力で応える先見の明と柔軟な姿勢が、佐藤ニットの最大の特徴。これからニットの依頼をしたい方は、「こんなことがやりたい!」と熱い提案をぶつけてみるのも良いのかもしれません。
有限会社 佐藤ニット
[代表]
佐藤祐幸
[所在地]
〒192-0062
東京都八王子市大横町2-18
042-622-4798
[主な事業]
ニット製品の製造・販売
[設備]
ホールガーメント機6台
横編み機5台
カセ上げ機・ワインダー2種・仕上げボイラー2台
[創業]
1960年
[情報]
1960年ごろ2台の手横機械からスタート。1975年ごろに半自動編み機を導入し、自動横編み機へ移行。2010年にホールガーメントを導入したと同時に、下請けとしての機能からメーカへと変化していった。ホールガーメントでは12ゲージ程度のニットが製作でき、横編み機は7〜14ゲージの編み地を作っている。
※本記事は『日本遺産「桑都物語」推進協議会』からの委託により(株)奥田染工場が「つくるのいえ」名義にて実施した調査に基づいて作成したものです。