富岡製糸場 街に灯るシルクの文化と精神を見つける街歩き

富岡製糸場 街に灯るシルクの文化と精神を見つける街歩き

2022/10/26

やってきたのは群馬県富岡市。メインのお目当ては富岡製糸場の見学なのですが。ちょっとその前にと思い歩いた街の様子もご紹介。シルク文化を感じられる建物が新しく役割を持って、街の景観になっていたり人が集まる仕掛へと生まれ変わっている様子がとても素敵でした。

おかって市場 地域の素敵なものと人が集うコミュニティショップ

通りから見えた建物の雰囲気に引き寄せられ入ったのは、おかって市場。モダンなおしゃれショップですが、「いちば」という響きにほっこりとします。

群馬県内で採れた新鮮な野菜や作家さんの器や生活道具。買い物がとてもはかどるものばかりで、近所に住んでいたら思わず通いたくなる素敵ショップ!

2009年から隣の建物で運営されていた同店舗が、移転しリニューアルしました。建築家・隈研吾氏の設計により繭の保管に使われていた蔵をリノベーションしているそうです。ここでは月一回のマルシェや料理教室を開催するなど、物のやりとりだけでなく市民の交流の場にもなっています。

 

お店の中には、山梨県富士吉田市の織物工場、TENJIN Factoryが手掛けるキッチンクロスも!違う地域の繊維産業が集まっているのにはキュンとしますね。富士吉田に3年間住んでいた私は、とても誇らしい気持ちになりました。

おかって市場
http://okatte-market.jugem.jp/

良い街には素敵な市役所がある?!

おかって市場の向かいには富岡市役所があります。同じく隈研吾さんが設計したこの市役所は、正面で広々とした芝生が出迎えてくれるのが印象的。お家のような棟が担当課によっていくつかに分かれ、敷地全部がとても心地よい憩いの空間になっています。

「富岡市役所内にはシルクの糸が飾られている」と聞き、ちょっと寄ってみました。

写真をお見せできないのは残念ですが、生糸にならなかったシルクの「きびそ」を利用した壁紙が建物を囲っていました!

きびそらしい、荒くて素朴な糸が流れるように一面に張ってあり、独特ですが天然由来の自然な安らぎも感じられました。

シルクの糸は保湿効果や酸化防止の力があり、繊維は最近建材としても注目されているそう。シルクの町らしく、かつ建材利用の可能性も感じられる素敵なアイデア!

最近取材などで様々な街の市役所や図書館などに見学へ行くことが多いんですけど。街づくりに力を入れている地域には良い公共施設があるなぁとしみじみ思っています。

空間だけではなく、そこに心地よく人が集まって良い循環をつくれているか。

おかって市場や市役所の広場のように、建物の中ではなくても地域の人が街と身近に繋がる場所やきっかけがあるのはとても素敵ですね。

富岡製糸場 近代産業の歴史と暮らしの風景

そしてやって来た、煉瓦づくりの大きな建物が象徴的な富岡製糸場。街の中には富岡製糸場と同じように煉瓦造りの跡地がちらほらありますが、やっぱりここは群を抜いて大きい。

2014年には世界文化遺産に選ばれ休日には多くの観光客で賑わっているこの施設は、1872年(明治5年)に操業を開始し、民営となってから1987(昭和62年)まで糸を作り続けてきました。

近代日本を形作ってきた製糸産業の模範工場として重要な役割を果たした富岡製糸場。その歴史とそこで働いていた人々の営みを覗いてきました。

歴史と今が交差する施設へと新しくなった西置繭場

ここは、2020年にリニューアルした西置繭場。糸になる前の繭を保管していた建物です。木の柱と煉瓦、瓦が組み合わされ、日本とヨーロッパの伝統がミックスされたモダンなこの建物は、国宝にも指定されています。

国内で揃えられる素材と輸入できる素材でどうモダンな建物を作るか、当時の設計士や大工さんが試行錯誤した様子が建物から伺うことができます。

西置繭場はしばらくの改修工事を経て、2020年にリニューアルオープンしました。中には創設期から現在までの、50mほどに及ぶ大きな年表の展示があります。世界情勢や日本の情勢と富岡製糸場の変化が連動され、わかりやすいビジュアルと細やかな説明は何回でも見返したくなります。

このリニューアルを記念して出版されたガイドブックには、写真に納められない展示の細部まで掲載されています。理解するのに少し難しい製糸の工程や歴史が、かみ砕いたイラストやアイコンで示されていて、写真も豊富でとてもわくわくする入門書!

そして「国宝を借りる」との文字が印象的なパンフレットを発見。西置繭場の一角が多目的ホールとして整備され、申請すれば様々なシチュエーションで使うことができるそう。

昭和初期の週刊誌や新聞が貼られた壁からは、当時の婦人雑誌の様子やスキャンダルなコンテンツを見ることができました。展示として見れるようにガラスで覆われ、それが空間の壁としても成り立っている。大切な国宝を守りつつも、かつてのように人々が行きかう場として活かしていることにグッときました。

今回伺ったときは様々な施設が改装中であり、西置繭場のように今後どんな風になっていくのかとても楽しみです!

製糸とともにあった人々の暮らし

富岡製糸場の施設内はとても広大で、工場だけではなく明治期や大正、昭和初期に建てられた女工さんたちの寮や療養室、社宅が残っています。

昭和初期に建てられた社宅は中が公開され、昭和30年代の暮らしを覗くことができます。

厳格できっちりとした生産現場の面影だけが残っているのかと思いきや、ここで勉学をしたり生活の術を学んだり、何十もの家族が生活をしたりと、豊かな人の営みがここにあったことを端々から感じることができます。

単なる同僚というだけではなく、ときにはトラブルもありながら家族のような関係性で仕事をしていたのかもしれない。富岡製糸場は、そんな想像を巡らせながら人々の生きた風景を見ることができる施設でした。

富岡製糸場
〒370-2316 群馬県富岡市富岡1−1

安中磯部温泉 幻のような居酒屋とホルモン

今回のお宿は、富岡市のお隣にある安中市内の磯部温泉でした。泊まったのは貸切温泉を交代で入れ、しかもお部屋がとても広い激安宿「旭館」。ゆっくり1人で大浴場と露天風呂を満喫できる超穴場宿です。女将さんがとても優しく、赤ちゃん連れにもおすすめ。

磯部温泉は温泉マーク発祥の地らしく、温の字に湯気が立っていました。かわいい。

夜ごはんは地元の居酒屋さんへ。
店主のおっちゃんが1人で切り盛りしているお店で、おすすめの鳥皮とホルモンがとても美味しい!

定年退職後に一念発起し始めたそうで、今年で77歳。おっちゃんの長くて深い人生が醸し出す、楽しさと寂しさが一緒にあるような、幻のような、そんな居酒屋でした。

私たちがお店を出ると、さっと店じまいをして煌々と照らされていた灯りは真っ暗に。本当に幻のような居酒屋さんなのでした。